ニューヨーク
—ウィーワークが提案する新たな起業コミュニティ—
ニューヨークは、サンフランシスコに次いでスタートアップ企業数やベンチャーキャピタル投資が多い、世界第2位の都市である。都市別でこれらに続くのが英国・ロンドンだが、ニューヨークのおよそ半分の規模と、その差は大きい。
そのニューヨークを本拠地として拡大しているのが共同オフィス賃貸業のウィーワークである。時価総額100億ドルといわれるユニコーン企業で、ニューヨークだけで30拠点、世界で70拠点以上展開している(2016年3月現在)。毎月5カ所のペースで新拠点をオープンしており、利用者数は、世界中で5万人以上にのぼる。ロンドン、ベルリン、サンパウロ、上海など各都市に進出しており、東京でも開設予定だという。
ウィーワーク・フルトンセンターは、もともと同社の本拠地で、ニューヨークで最大規模を誇る。ロウアー・マンハッタンのグラウンド・ゼロ近くのビルの10フロアを占める。強烈な活気溢れる通りからひとたび施設に入ると、温かみのある木目を基調とした交流スペースが広がる。同センターの入居者は1700名で、スタートアップ企業はうち2割、それ以外の入居者は大企業のサテライト拠点や、フリーランサー、税理士・法律家など、様々である。地下鉄通勤に便利な立地で、家賃の高いマンハッタンで事務所コストが削減できる。
コスト面もさることながら、同社が他の施設と差別化するポイントは、コミュニティである。個別のオフィスでも間仕切りはガラスで、誰が何をしているかが一目で分かるつくり。キッチンや交流スペースも、入居者同士が交流できる動線になるよう工夫されている。入居者限定のSNSアプリでは様々なコミュニケーションが可能で、例えば自分が作ったロゴについて、メンバーに見てもらいフィードバックを得ることもできる。そのようなことを通じてコミュニティの基盤が出来、大人数になればなるほどネットワークとして向上するという。
同社が進めるインキュベーションもコミュニティが鍵である。フルトンセンターをはじめとする5拠点に「ウィーワーク・ラボ」を開設し、選抜されたスタートアップ企業同士や大企業との共同開発の場を提供、投資家とのマッチングも行っている。クラウドファンディング出身のラボ・マネジャー、アブラモビッチ氏は、「ラボに選抜されるスタートアップ企業の要件として特に重視するのが、コミュニティ意識を共有できるかどうか。初期のスタートアップ企業は悩みも共通なので、ラボを核としたコミュニティで助け合うことで、課題解決と成長につながる」という。いかにコミュニティ全体を向上させていけるか、に腐心しており、施設内を巡る折にも、同氏は絶えずメンバー企業への声掛けを行っていた。
ラボ・マネジャー アブラモビッチ氏(左)
国際IT財団 http://www.ifit.or.jp
(初出:『生産性新聞』2016.8.5, 第2503号)